思えば奇妙なプロジェクトだった。
そのプロジェクトはオンサイトと在宅の翻訳者で構成されていた。プロジェクトのML(メーリングリスト)にはオンサイトの人が入っており、在宅の人は入っていない。しかし、在宅翻訳者からの連絡先として、このMLのアドレスが設定されていた。このため、在宅の人はこのアドレスをリーダー個人宛と勘違いして、作業報告とともに作業単価など個人的な内容も書いてきたりする。さらに、住所、電話番号、個人アドレスの署名も入れている。そうした個人情報が社内のML関係者全員に流れていた。こうした状況を在宅の人たちは予想しているのだろうか?一方、在宅の人たちにはMLも社内の人の個人情報も流れない。在宅で作業をする際、こうした点に注意する必要がある(まあ、これほど杜撰なところは、他にそうないとは思うが)。
リーダーの席はパーティションなしの机のちょうど斜め前だった。彼は仕事中、しょっちゅう立ち上がっては私より後ろ、奥の方をうかがっている。そのまま腰を下ろすときもあれば、大慌てで部屋の外へ走り出て行くこともあった。すぐに戻ってくるので、トイレへ行くほどの時間もたっていない。この行為を1日に何度も繰り返すので、一体何をしているのか気になった。最初はビロウな話だが、外でおならをするために走り出ているのかと思った。彼の1つおいた隣に座っている男性翻訳者も気になっていたようで、「しょっちゅう走り出て行くでしょ。頭にあいつの手がぶつかるんだよね。迷惑だ」と言っていた。
リーダーはたまに外に走り出るほかは、ほとんど席から離れなかった。昼休みも画面の前から離れず、じっとパネルを見つめている。周りの人がみな席を離れ、あるいはPCにロックをかけて本を読んだり寝たりすると、やっと自分も画面を見るのをやめて机に突っ伏したり外に出ていった。最初は誰よりも遅くまで仕事をするポリシーの人かと考えた。だが入力はまったくせず、ただひたすら画面を見つめている。これが毎日続くと不審な気がした。サイトを閲覧しているだけかもしれないが、画面を離れるタイミングが必ず、プロジェクト関係者すべてがPCにロックをかけた後、というのも。
社内翻訳の納品期限は夕方5時や昼12時のことが多い。たいていみなその直前に納品する。翻訳ファイルを共有サーバーの納品フォルダにアップし翻訳完了をMLで知らせる決まりなのだが、作業完了メールを送る前から、リーダーはアップされたファイルを操作している。初めは時間が近づくとフォルダをときどき確認して、ファイルがアップされ次第作業しているのだろうと考えた。
あるとき、エクスプローラで共有サーバーを開くと、斜め前の彼が身構えるように身を乗り出すのが見えた。あれ、と思いフォーカスをワードや別のソフトに移すと、背もたれに背中を戻す。再びフォーカスを納品フォルダのエクスプローラに移すと身を乗り出してくる。気のせいかもしれない、と思い、スケジュールで隣の女性の納品期限を確認し、納品時間に注意して見ていた。パーティションがないため横から画面が見えるのだが、やはり彼女が移動操作を”しようとしたとき”に身を乗り出している。
あるとき、在宅翻訳者の納品ファイルにエラーが出た。ローカライズではプロジェクトによってさまざまな翻訳支援ソフトを使用する。このため、語学力だけでなくツールの習熟度も重要になってくるが、最初は誰もが初心者なので、講習会を開いたり質問を受け付けたり、通常は親切に対応するところも多い。
彼女とリーダーのやりとりがMLに流れた。彼女はソフトの使い方がわからずおろおろしているだけであることが、そのやりとりから明確であるにも関わらず、彼は
「原因究明について非協力的な態度に終始された方です」というメールをMLで流した。さらに「こんなエラーは初めてです。こんなエラーを出すなんてある意味凄いです。すばらしいです」と書いていた。皮肉というよりもっと根源的な悪意と乾いた冷たさを感じた。あるいは最初から彼女を切る計算だったのかもしれない。
その後彼女はプロジェクトから外れた。
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その直接、部長と話す機会があった。どうもあのリーダーとは合わないので他のリーダーの下か、いっそのこと別のプロジェクトに移してほしい、と話した。部長は彼もうざいところがあるが悪い人ではない、もうしばらく様子を見てほしいと言った。こちらも確証があるわけでもなく、勘でおかしいと思っているだけなのでそれ以上は言わなかった。
その後、別件で部長と話があったときにも、今の状況はどうですかと聞かれ、やはり彼には不信感があるし、また他のソフトにも関わってみたいので、できればほかのプロジェクトに移れないだろうか、と答えた。今ほかで人を必要としているところはないので急には無理だが、何か適当なものがあったら移ることも可能かと思う、と部長は言った。
そのことで部長が彼に注意か何かしたらしい。彼が警戒し始めた感じがあった。
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問題は12月16日に始まった。
昼休みに何人かで食事に行き、ほぼ、彼がなんだかの手段でLAN盗聴を行っている、との確信を得た。戻るとOutlookを開き「まだ見ているの?(某)さん」と書いて自己宛メールで送ってみた。斜め前に座る彼が「ううっ!」と画面を大きく覗き込んだ。「今日お昼女性陣の間でこの話題で盛り上がったよ」と書くと「うーん」とのけぞり腕を組んだ。
最初は暗中模索だった。気のせいかもしれないという疑念もあったし、そういったことが本当に可能なのかもよくわからなかった。この手の知識がないので、とにかく帰りがけにネットカフェによってはLAN盗聴だのモニターだので検索して情報を仕入れた。どんなサイトに飛ぶか知れず、自宅のPCだと危険だと考えたのだ。
そうした調査の結果、最初はメールのスニフィングではないかと予想したが、あれこれ書き込んでは相手の反応を確かめると、送信しなくても反応があり、さらにメモ帳に書いただけでも反応のあることがわかった。
独り言の多い人なので、独り言を言っている最中に「独り言はやめろ。回りの女の子も気持ち悪がっている」と書くと、急にとめて、以来ピタリとやんだ。同じく鼻歌もよく歌うので「騒音迷惑。ここは会社だ」と書き込むと、やはり急にやめる。何かの拍子につい歌いだしそうになると、あわてて止めている。なんだかこの状態、逆に相手を支配できそう、とすら思える。
PC操作の動きもモニターできるらしく、メモ帳にカーソルをあて、カレントウィンドウにすると身を乗り出す。何も書かずに翻訳支援ソフトに戻るとまた背を戻す。「モニターばかりしとらんで働け。あんた時給高いからだらだら残業問題になってるよ」と書くと、急にキョロキョロしてその日は珍しく6時半で帰った。
しかしこれらはあくまで印象だ。このままで「あんたモニターしてるでしょ」と言ったところで、単に”変な人”でしかない。方法、ソフトがわからなければ話にならない。電子的な証拠が必要だ。タスクマネージャのプロセスを見ても、何も不審なものは見当たらない。キー入力とデスクトップのモニタができることは確実なので、ためしにネットワークを切断してみた。すると急に慌て、すごいスピードでなにやら打ち込んでいる。おそらくMACアドレスだか何かを入力していたのだろう。あちこち見たり、あたふたしている。再びLANにつなげたところ、モニターが復活するらしく、動きが止まる。「今は面白かったね」と書くと、うーん、とうなる。
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このプロジェクトに参加した当初は、張られている印象はなかった。11月末頃までは格別何事もない。
詳しいモニターが始まったとすれば、12月8日の可能性が高い。部長との話し合いや、このリーダーのQA終了のタイミングからすると8日から12日までの間になる。あるいは何か他の要因かもしれない。
12月27日、同僚の翻訳者に、彼の後ろを通って画面の確認をしてほしい、と頼んだ。いつもは「アングラ演劇の好きな私、て、ひょっとして危険人物?」などと反体制をにおわせ勇ましいことを言っている彼女だが、「あの人の後ろ、てあまり人通らないよね、大丈夫かなあ」とあきらかにびびっている。PCの知識がないので、説明してもほとんど通じないため、とにかく私が部屋に入って30秒後くらいに部屋に入り、彼の後ろを通って席に戻り、あとで画面に何が見えたか教えてくれるだけでいいから、と言った。
そして昼休みのはじめ、メモ帳に「キョウハネルナ!ジュウヨウナコトヲカク!」と入力した。部屋の外に出て彼女に最終確認をしてから戻り「コレカラジュウヨウナコトヲカク」と打ち込んでいると(彼はずっと画面をモニターしていた)、彼女が後ろを通った。「イマワカッタ?ガメンカクニンシテモラッタ」と書くと、急にオタオタしはじめ、「うーん」とうなったり、机の中の印刷物をまとめはじめた。そういえば、今までよく何かを印刷しているな、と思っていたのだが、その様子を見て、ひょっとしてモニターした中で重要なものを印刷していたのではないか、と思った。かなりたまっているようで、ひたすらまとめている。おそらく40代後半と思われる彼だが、急にゲッソリふけて見える。かなりの量をシュレッダーにかけ、残りを鞄に入れ、この日は珍しく早く帰った。
このあと彼女に確認したところ、右にPC画面のような写真が沢山貼られていた、左には何か文字が数行書いてある画面があった、何が書いてあるかまではわからなかった、と言った。
12月19日から22日頃までは、実験的にいろいろ書き込み、こちらがいびっている感じだったが、12月26日から水面下バトルが本格化した。
この間、彼は一切こちらを見なかった。ひたすら画面を見ていただけで、今振り返ると不思議な気がする。斜め前なので、反応を確かめるためこちらが注視していることには、普通なら気がつくはずだ。そして何も心当たりのない人なら、「何か用ですか?」「どうかしたんですか?」と訊ねてくるだろう。
逆にこちらから「何しているんですか」と話しかけ、揺さぶりをかけることもしなかった。今思えば、やっておけば面白かったかも、と思う。また違う展開になった可能性もある。ただ、言い方を間違えると頭のおかしい人扱いされる可能性も高く、直接対決には高度な技術を要する。まずは確たる証拠がほしかった。
12月28日の夕方、帰りがけに自分のアカウントのパスワードを変更し、administratorにパスワードを設定した。この会社はメンテナンスに便利だからとXPのadministrator権限にPWを設定していなかったのだ。ありえない設定だと思う。このとき、adminの設定ウィンドウが画面に出ると、彼が「なるほど」と言ったのが聞こえた。あとで考えると、ここからPWの再変更を思いついたのでは、という気がする。
12月29日、早めに会社へ行き、PCに入ろうとすると、PWを入力しても入れない。administratorのほうも試したのだが、やはり入れない。初めは間違えたかと思ったが、メモしてあるものと寸分違わず、両方とも忘れるはずもなく、即座にこれは夜、彼に変えられたな、と直感した。
彼は毎晩夜遅くまで残業している。また土曜も出勤している。ある人は「いつ休むんだろう」と言い、あるPMは「あんなに働いて大丈夫でしょうか」と言っていたが、私はあやしいと思っていた。席を離れない人はあやしい。もちろん、働き方による。集中して働いているのなら本当に勤勉な人だが、彼はしょっちゅうそっくりかえって休んでいる。社員でないが最後まで残ることも多く休日出勤もするので、最後の戸締り方法や最初の入り方も知っている。
PCに入れない事態を部長に話したところ、とりあえずマシンを準備するまで待ってほしいがしばらくかかる、と言われた。この頃には彼がPWを変更したと確信していたので、即座にもともと休む予定だった明日出社する代わり今日は帰ることにする、と告げた。この状況を調べたいと思ったからだ。まだ10時前で彼は来ていなかった。
帰りネットカフェによってデスクトップの監視、キーロガー、ストーカーなどについて検索する。この当時ですでに、監視ソフトやキーロガーにはプロセスに出ないようにすることができるものがあることもわかった。キーロガーにしてもデスクトップのショット撮影にしても、非常に強力なものは、ネットワークにつながっていない時の入力内容やキャプチャを保存しておき、つながった瞬間送信できるものがあることも書かれている。一方、この手の違法(?、実際には不正な手段で入手した情報でも、他へしゃべらない限り違法にはならないらしい)ソフトに対する、強力なデテクションソフトについても調べて、いくつか保存した。
システム管理に詳しい知人にも聞いてみたが、「社外からの攻撃に対しては防衛できるが、基本的にドメイン環境、つまり社内の環境で防衛することは不可能だと思う」と言っていた。ということは奴がいる限り、この状況から逃れられないことになる。
12月30日、早めに出社して何人かに状況を話す。一番親切にしてくれていた人事の人も、PCの知識がゼロの年配者なので、説明しても埒があかない。ここで一番PCに詳しい社員を紹介してほしい、と言うと、同じく年配の人を紹介された。この年代の人たちは基本的に性善説で、理工系のエキスパートでも違法監視ソフトだのキーロガーだのについては言葉も知らず、興味もないし知識もないようだった。セキュリティ意識ゼロなのだ(2005年当時)。
10時になり、奴が来た。丁度いい。とりあえずこれを使って、と据え置かれたPCに対し、昨日調べたペストパトロール(当時は米国国防省も使用しているという強力な検出ソフト)のフリー検索サービスをかけ始めた。すると、あきらかに「うん?」と画面に釘付けになり、焦っている。やはり新しいPCにも何か入れたな、と感じる。9件検出された。自宅のPCで試したときはゼロだったのに。
さらにキーロガーデテクションを起動させる。ここでもやはりアカウントフォルダ、ローカル設定のtempフォルダが毎回検出される。確かにこのフォルダに何か意味不明のファイルが次々と出来ては消えている。ここにデスクトップキャプチャとキーログファイルを一時保存して自動送信しているのではないか?
これらの検出ログを先ほどの親切な上司に送付し、PCに詳しい人に調べてもらってほしい、と書いた。すると奴、あきらかに焦ってなにやら整理をはじめた。さらに翻訳部長、PM各人、知り合いの上司らに、このプロジェクトではデスクトップキャプチャとキーロガーをやっている人がいる、セキュリティに問題があるのでそれが解決するまで出社しない、と書いてメールを送った。すると奴はほとんど泣きそうになり、席を立って出て行った。ずっと戻ってこないので外に出てみると、階段のところで誰かと携帯でずっと話し込んでいる。話の内容がわかるまでは近づけなかったが、指南役でもいるのだろうか。
普段長く席をはずしたことのない奴が、いつになくしょんぼりした様子で戻る。こちらもネットワークを切断して仕事をしつつ、様子を目で監視する。しばらく奴も仕事をしている様子だったが、急に「うーん」と言いながら画面を注視し始めた。少し元気になったようだ。部長やPMらの間で、私のほうがおかしい、といった内容のメールを交わしているのではないか。
そんな風に考えているうち、急に馬鹿らしくなってきた。奴も随分下品な顔をしているな、こんな奴と関わってバトルして、一体何になるんだ?こちらもこうしたマイナスの内容にエネルギーを費やすことは、果たして正しいことなのだろうか?
年末で仕事量も少ない。奴は自分の作業を終了したあと、しばらく机を拭いたりだらだら居残っていたが、ついに先に帰った。
彼が帰ったあと、残っていた翻訳者たちと話す。ある男性翻訳者に
「彼は絶対デスクトップ監視とキーロガーかけてるよ。今日私がまだ触っていないPCにデテクションソフトかけたら何件か検出されたんだよね」と言うと、
「僕もアイルランドでいろいろあったからね。彼のことは信用していない」と言う。
「でもストーカーとはちょっと違うよね」と言うと、
「いやあ、彼はストーカー事件起こしてるよ」と言う。
「えー、何それ!ちょっと詳しく聞かせてよ!」と言うと彼はここではまずい、と他の部署でまだ残業している人たちのほうをちらりと見て外に出た。
その話によると、彼はとある海外でのプロジェクトで日本人翻訳者たちから気持ち悪いと嫌われていた。台湾チームの女の子に一人親切な人がいて、彼女がたまに買物につきあったりしていた。そのうち、仕事の速い彼は、自分の割り当て分を終了すると、帰らずにPCの前に座ったまま彼女のことをじっと見るようになったという。また、しょっちゅう彼女の部屋の窓の下に行っては立ったり、夜中に部屋の前へ行ったりするので気持ち悪がられ、台湾チームから日本チームのリーダーに注意がいった。丁度その頃、仕事量の関係から一人早めに帰す必要が出た。日本チームのリーダーは、もうあいつは面倒くさいから帰しちゃおう、とその一人を彼に決めた。実力的に自信のあった彼は、なぜ自分なんだ、と激しく怒り、帰国後、その人事に関わった社員に対し「訴えるぞ」という内容のメールを何度もしつこく送り続けた。この話は当の社員からこの翻訳者が直接聞いている。そして今回、彼がこのプロジェクトのためオンサイトで来るようになったとたん、そのメールがぴたりと来なくなったという。
この話を聞いて、やはり直感は当たるものだな、と思った。また寮で同室だった翻訳者が、彼が台湾女性の部屋の前や窓の下へ行くため、頻繁に部屋を出たり入ったりしていた、夜中でも出入りするのでうるさくて眠れなかった、と言っているのを聞いたとき、しょっちゅう立ち上がっては奥のほうを覗くようにして、外に飛び出してゆく姿を思い出した。おそらく今も誰かを張っていて、PCにロックがかかるたびにその人の様子をうかがい、その人が外に出ない場合はまた腰を下ろし、トイレや給湯室へ行くため外に出る場合は駆け出してゆくのではないか?
プロジェクトに途中参加したある男性翻訳者が、当初、ここであいつと一緒になるとは思わなかった、と言っていたことがあった。そして12月22日、「さっきとんでもないメールが来た。リーダーの一人、Yさんが辞めて彼がこっちも見る。それだけは避けたかった。他に面白そうな話が来てるんだよね。彼の下なら辞めようかと思う」と言っていた。この話に、そういえばこのプロジェクトのリーダーは次々に辞めるな、春にいたAもBも辞めたし、私が入る直前までいたというCとかいう人も辞めている、元からいた人で残っているのは彼一人、何かあるのだろうか、とふと思った。
これらの話を聞き、こんなところにいては時間もエネルギーも浪費してしまう、性格にも影響するだろうし、年も変わることだしもうやめよう、と決断が下った。いちおう、他の人に引き継ぐファイルをわかりやすい場所に保存して、机を片付けて帰った。
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1月4日、電話をしてプロジェクトを抜けると告げた。こちらが辞めることになるのは解せないが、まあ仕方がない。かなり赤裸々に語ったが、あまりこちらの話を信用していない感じだった。まあ、予想通り。
こういう時、人は頼れない。
午前中ネットカフェでLAN盗聴やストーカーについて検索。かなり精神的におかしい被害者もいるが、ストーカー、集団ストーカーなど結構被害者がいるもよう。一人で耐えている者、集団から狙われている者。集団の場合は宗教絡みが多い(脱退など)。映像もあり、はじめは気のせいじゃない?と思ったが、見てゆくうち、わざとぎりぎりに横付けして急停車する車だのかなりおかしい、本人の訴えが本当では?というものも結構ある。
こうしたことに対し、本人の気のせい、というのが回りの反応の定番で、会社で友人に相談しても避けられる、精神病ではと言われる、という訴えも多い。
やはり狙われたことのある男性が、体験の実感として
「攻めは易く守りは難しい」とコメントしていたが、本当にその通り。そして証拠そろえが難しい。
netstatというコマンドを使えば、キーロガーなどのログの送信先のIPを表示させることが可能なことも、後からわかった。当時知っていれば、と切歯扼腕したが、しかし当時の状況を考えるに、結局この方法も内容を理解できる人とペアで組まないとうまくゆかない。無理だったのではないかと思う。
今回の騒動で思ったが、彼が自己愛が強いが故の危険なタイプであることに変わりはないが、ただ、こちらが嫌うと確実に向こうもこちらを嫌う。こちらも態度に気をつけるべきだった。
また、普段愛想良くして周りを味方につけておくことも必要。そうでないと、何かがあった場合味方になってもらえない。助けてくれ、とは思わないが(戦うのは自分自身だ)、話せるだけ、それを理解してもらうだけでも随分違う。
こうなった原因は、こちらにもある。
下に書くようなその後の状況を考えれば、あの時点で離れて正解だったとは思うが、こうした状況を呼び込んだのは自分の対応のまずさ故だ、ということは肝に銘じる必要がある。
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その後、やはり問題の海外プロジェクトに参加していた別の翻訳者から、当時の様子について聞くことが出来た。彼女も同じ内容を語っていた。その人によれば、別に皆で彼を無視したわけではないという。ただ向こうが皆となじもうとしなかった。また自分を show off する感じが鼻に付き、当時当地ではやっていた、鳥が羽を広げて自己顕示するCMからヒントを得て、みなで彼のことを語るときに、暗号としてこの鳥を使うようになったのだそうだ。
また、このあと参加した他社プロジェクトで会った古くからの知り合いに、(電波系ととられるかなと思いつつ)この出来事について話したところ、
「あーあの会社はそういうことやっている人多いよ」と当たり前のように言った。「ローカライズやっている人、でコンピュータの変な知識あったりする人いるからね。1日机に向かう仕事でほかに楽しみもないしさ。その人のことはよく知らないけれど、別の人で知ってるよ。今まだいると思うけど」
さらにその後、システム管理者のそばで仕事をする機会があり、ちょうど良い機会なのでいろいろ聞いてみた。
その説明いわく、ドメイン環境にある(LANにつながれた)WindowsXPの場合、AdministratorのPWがない、もしくはPWがわかれば、リモートデスクトップ機能で簡単に他のPCからアクセスできる(システム管理者でなくても可能)。
また、WindowsXPには3種類の「管理共有」という隠し共有があるため、AdministratorのPWがわかれば(もしくはない場合)「\\コンピュータ名\C$」などで簡単に外部のPCからアクセス可能。
つまり、この件は基本的にWindowsXPの管理共有を使用していたのではないかという。早朝や深夜にその人のPCの前に座らなくても、LAN経由で不正ソフトを入れることも可能。なお、この機能はWindowsXP Professionalのもので、Personalにはない。
また彼によれば、違法なツールでなくとも、合法的なリモート管理ツールでやろうと思えばLAN盗聴もデスクトップモニタも簡単にできる。そしてシステム管理者は、通常、外部からの侵入やウイルス対策に対応するもので、社内で行われていることについては、業務時間中の頻繁な私用メールや無関係のサイト閲覧以外、個人個人が何をやっているか把握していないし、取り締まる立場にもない、と言っていた。
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今振り返ると、彼はあの海外プロジェクトに参加していた人たちに対して復讐していたのではないか、という気がする。あの「原因究明について非協力的な態度に終始された方です」とMLに流された女性もそうだ。
あるいはその後、彼に意図的にはめられそうになった、という男性翻訳者がいる。なんでも、彼からある書類をチャットで送れとチャットで指示され、たまたま送り方がわからずメールで送ったところ、彼に「重要な書類をチャットで送った人がいる。これはやってはいけないことだ」とMLに流された。その男性は怒って「自らチャットで送る指示を出しておきながら何事だ!それに自分はメールで送っている」とMLに流した。MLには部長らも入っているので、慌てて仲裁に来た。彼はそんな指示は出していないと言い張り、指示を出した出さないの押し問答となった。たまたま男性のチャット機能が初期設定のままだったためログを記録する状態になっており、ログが出てきた。こうして確かに彼が指示を出していたことが判明したが、彼は指示を出したことを忘れていた、ととぼけたという。上はなぜか不問にした。
ほかにも、プロジェクトを勝ち取る原動力となった翻訳者が、その後彼にどうでもよい難癖をつけられてはずされた話や(翻訳力のあるPMや上司なら評価におかしな点があることはわかるはずだが、英語の出来ない人も多いしと嘆いていた)、最近(2008年)も彼にはめられ辞めるよう追い込まれた、とこの会社の社員から相談を受けた人の話も聞いた。皆関係者である。
ところで、彼は海外プロジェクトで一緒だった人たちが、私も含めた周りに彼の悪口を吹き込んだ、そのため私が彼を嫌うようになったと考えているようだ。しかしそれは違う。プロジェクトで一緒だった人たちは、自分のほうから悪口を広めたりはしていない。
私が彼は何かおかしい、と感じたのは人から吹き込まれたのではなく自身の直感で、そこで周りに相談したところ、「実は・・・」とさまざまな話が出てきたのだ。悪口を吹き込まれなくても、勘の良い人なら気がつく。
さてさて、もしこの話が心当たりがあると言うのなら、同人誌を指導してくれた某作家先生の言葉を借りてこう切り返そう。
「なぜこの話のモデルがご自分だ、と思われたのですか?」